パワハラ裁判例2019

2024年

パワハラ裁判例2019

<職場上司の言動により精神障害を発症し自殺に及んだと判断>

労災保険給付金対応、職場パワハラ認定

製造販売を行うA社に働くB社員は新たに上司となったC課長により営業成績や仕事の仕方についてしばしば厳しいコトバを浴びせた。そうした中でB社員は身体の変調が現れ営業上のトラブルが生じるようになったのちB社員は自殺した。

<判決ポイント>
(1)業務と精神障害の発症との間の相当因果関係が認められるためには、ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性を総合考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、業務に内在又は随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定するのが相当である。

(2)精神障害の患者が自殺を図ったときには、当該精神障害により正常な認識、行為選択能力及び抑制力が著しく阻害されていたと推定する取扱いが、医学的見地から妥当であると判断されていることが認められるから、業務により発症したICD―10のF0~F4に分類される精神障害に罹患していると認められる者が自殺を図った場合には、原則として、当該自殺による死亡につき業務起因性を認めるのが相当である。

B社員がC課長の着任後、C課長との関係が困難な状況にあることを周囲に打ち明けていたこと、B社員の個体側要因に特段の問題がみあたらないことについて当事者間の争いがないことからして業務上の心理的負荷の原因となる出来事としてC課長のB社員に対する発言を上げることができる。

(4)C課長によるB社員に対する暴言「お前は目障りだ」「会社を食いものにしている給与泥棒」「くるまの経費がもったいない」など認められた。

(5)C課長はB社員に対して部下として指導をしなければならないという任務を自覚していたと同時にBに対して強い嫌悪の感情を有していたものと認められる。

(6)上司と部下との間に伴う心理的負荷が一般的に生じる程度の者の場合は社会的通念上客観的にみて精神障害を発症させるものと認められないが通常の範疇を超える者の場合は従業員に精神障害を発症させる程度に過重であると評価される。

(7)本件において
C課長のコトバはB社員の人格存在を否定するものである。C課長のB社員に対する発言は、言葉自体の内容に加え営業活動の基本をも否定し嫌悪の感情をむき出しにしていることが認められる。C課長の性格と他人に対する態度は、自分のおもった事感じたことを 相手の立場や感情に配慮することなく表現し、しかも大きい声で傍若無人に威圧的に発言するものである。C課長とB社員が所属する勤務形態からしてC課長から受ける厳しいコトバを心理的負荷のはけ口がなく受け止めなければならなかった。